自宅近くの中華屋でひとり餃子つまみつつ麦酒を飲んでいたら、
店の入り口付近で急に女性が転倒した様子でした。
店員さんが慌てて駆け寄るのを眺めつつ、
立ち上がり介助に手を貸そうと席を立ち声をかけようとしましたが、
おそらくは旦那さんとおぼしき連れの方が、
「膝をまげて」とか「頭を前に出して」と指示していたので、
ああ慣れてらっしゃる方なんだな、と、
差し出がましいことをしないよう、席に戻って様子を見ていました。
おふたりとも、中年を過ぎたばかりな歳の頃に見えますが、
よく見ると、その女性はかなり進行した癌患者さんのようでした。
一見では気づかないような衣服を着ていましたが、
介助されている様子を見ていると、
身体はだいぶやせ細り、肌も乾燥しています。
でも、立ち上がりを助けてくれた旦那さんを見ながら、
こちらにはよく聞こえない憎まれ口叩きながら、
結局ふたりでにこにこ微笑んでいました。
ふと、ふたりがいたテーブルに目をやると、
少し残した餃子の皿と、麦酒の空き瓶と、
ラーメンの丼が並んでいました。
次に、店の中から窓越しに見えたのは、
時折振り返りながら男に文句を言う女と、
苦笑いしながら女の車椅子を押す男です。
特に名が知られているわけでもない商店街の、
そこらへんにある中華屋での出来事でした。