19~20歳の頃、中野の裏路地でいわゆる黒服をやっていたことがある。
だいたい夕方17時くらいから勤務して、4時くらいに閉めをやって、その後スタッフと女の子たちで飲みに行く。まあ、どこも同じだろうけどそんな感じ。
ある日、翌日にスタジオ予約してたこともあり、閉店後、みんなと別れてひとりで帰った。腹が減ったので、ラーメン屋に入った。すると、カウンターの端に女の子がひとり飲んでいた。
夜の仕事風な服装はしてるけど、どう見ても着慣れていない、着られている感じで、高校卒業したてくらいの年齢かな、まだつい最近上京したばっかりとか、どこかから逃げてきてとりあえず職にありついたとか、そんな印象を受けた。で、その女の子、店員のおっさんに話しかけられると、控えめな笑顔で生真面目に返すんだけど、つくった表情が続かない、すぐ素に戻ってしまう。素は、思い詰めた表情だった。
って、そんな凝視していたわけでもなくて、一瞬目に入ってしまったその「控えめな笑顔」のぎこちなさが鮮烈でなぜか忘れられないんだよね。
でも、すごく不思議だ。顔もよくおぼえていないし、服の色も形もおぼえていない。だけど、ぎこちない笑顔と思い詰めた表情は、いつでも脳内で再生できるくらいおぼえている。いったい、ひとは何をおぼえるのだろう。ひとは何を思い出すのだろう。
あの女の子、元気かな。幸せだといいな。