Kさんのこと

今から5年前、訪問介護員として働き始めた頃、
ある二人の利用者さんと出会いました。
このお二人に訪問を始めてすぐ出会えたのは幸運でしかなく、
このお二人が私を育ててくれたと言っても過言ではありません。
そのうちのお一人Dさんのことは、先日ご紹介させていただきました。

今日は、もう一人のKさんについてです。

記憶がないくらい小さい頃に母親を亡くし、
早くから山の仕事を手伝い、やがて上京し石材屋として独立し、
若い衆を何人も抱えるまでになった親方さん。
背は小さいけど、グローヴみたいな大きな手をしていた方。
苦労してきた人は懐深くやさしい、を絵に描いたような方。

入浴介助がメインだったのですが、
湯船につかったKさんとの初めての会話をはっきりと憶えています。
「なんだか、モダンなデザインのお風呂場ですねー」
「お客んとこで余った石を持ち帰ってきて自分でこさえたんだよ」
大理石や御影石などなど、色んな石が入り混じったお風呂場には、
お孫さんやそのお友達なんかもわさわさ入りに来ていたそうです。

色んな種類の石のこと、若い頃していた木の仕事のこと、
まだ子供の頃に上京してきた頃、毎日苦しくて悔しくて、
電車に飛び込もうと思っていたこと、靴磨きでしのいでいたこと、
職業病で肺がやられたこと、あちこちの温泉の風呂をつくったこと、
排泄ケアをすると「悪いねえ。。」と毎度おっしゃるから、
「ぼくもKさんの曾孫さんにしてもらうんですよ?」と毎度返すと
「そだねえ、かわりばんこだもんねえ」と毎度受け入れてくれたこと、
まだまだいくらでも書けます。

そして、色んな事を忘れてしまうようになったこと。
だから、なんなんでしょうか。
アルツハイマー型?だから?それで?

実は、私の仕事用バッグの中には、お守り代わりに、
Kさんとご家族と私で撮った写真が入っています。

それが、本当のお守りになるときが来ました。
先日、いつも良くしていただいたご家族さまから
「感謝」という件名の長いメールをいただいたのです。
いとしくて、せつなくて、胸がいっぱいになりました。
感謝するのは私の方です。全面的に。

忘れた日はないです。これからも。
思い出さない日はあります。これからも。

Kさん。
もうKさんは変わらないんですね。変わるとしたら、私の方です。
私は、何を隠そう、あほで間抜けで小狡いので、
社長なんかになって調子づいてるときがあるかもしれません。
そんなときは、いつでも私の脳裏に、夢に、出てきて叱ってくださいね。
出てきてくれなかったら、こっちから念じて呼び戻しに行きますから。
またあの頃みたいに「えー、おっくうだよ。。」って言ってもダメですよ。
私、Kさんの誘導ならお手のものですから。

ありがとうございました。
大好きです。

けんちゃんより
(いつもこう呼んでくれていました)

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