ヘッダ画像の古銭、みなさんはご存じですか?
これを手に入れた当時の私は知りませんでした。たしか、あれはまだ小学校に入る前でしたから、むしろその年齢で価値を知っていたらこわいですよね…。
これ、とてもかわいがってくれたひいばあちゃんからもらったものです。
あの世代の方なら通常運転なのでしょうが、「休む」という言葉が脳にも心にも存在しない人でした。起きてから眠るまでつねに何かしている。丸まった背中でとにかく何かしている。ほとんどが家あるいは家族のために何かしている。昼と夜の食後だけ、珈琲か酒をおともに美味そうにマイルドセブンを吹かして一服、それが唯一といっていいくらいの休息だったんじゃないかな。
自分のこども10人と孫3人を育てた人で、つまりいろんなこどもを見ているから、こどもを見抜く目に自信があったのかもしれません。私の母親に「この子は本当に冴えているから、良い方にも悪い方にも上がっちゃうかもしれない、よくよく気をつけて育てなよ」と助言していたそうです。(いまのところ、、、だいじょうぶ??かな?)
ひいばあちゃんのちょっとした休息を妨害するように膝の間に居座ってあれこれしているこどもだったわたしに、ある日ひいばあちゃんがふと、がま口財布からこの古銭を取り出してプレゼントしてくれたんです。それ以来もう40年以上、私の手元にあります。
でも、一度だけ、私の手を離れそうになったことがあります。
二十歳くらいの頃、私はまあ、正直しょうもない暮らしをしていたわけです。
後悔しているとかじゃないですよ。ただ、みっともなく情けないことをたくさんやっていました。そんなある日、どうしても金の都合がつかなくなったんですよ。よくあるあれです。さあ、どうしよう…といよいよ追い込まれた時、「あっ!あれがあるではないか!」と思い出したのが、この古銭です。
もう、まるですべてを自力で解決したかのような気分で、意気揚々と当時中野にあった貨幣商に持ち込み、いっちょ前の顔つきで「どのくらいの価値ですかね?」などとご主人に問いかけたわけです。古銭マニアとみられる常連客も数人居合わせている中で、です。
ご主人「これ、言いにくいけど、おもちゃですね」
いやあ、あの時の恥ずかしさったらないですね。
常連客たちからもどっと笑いがおきて、いろんな意味でいたたまれなくなり、バレリーナのコントをしているような軽やかなステップでその場を去りました。
でも帰り道、金欠は一ミリも解決してないのに、なんだか解放感あったのをおぼえています。なんだろう、自分ごときのご都合良いイメージから突き放された気持ちよさなのかな。
そんなわけで、2022年も私の手元にあります。いつも財布の中にいます。
よかった、おもちゃで。
もしかしたら、ここまで想定していたひいばあちゃんの策略だったのかもしれないですけどね。